松本駅を出ると正面から真直ぐに東に伸びる道がある。駅からでもこんもりと茂った杜が望見されるのだが、近付くにつれてヒマラヤ杉の並木を中心に、山並を背にした緑の空間の構造が見て取れる。残念ながら数多くはないが、美しい都市というのは、例外なく大小の杜を内包しているものである。
 市街地の中心には稀な、ひろびろとした空間である。こういう場所は、標準的な都市の結構からいえば、市庁舎なり、議会なりがあるはずの場所である。公園を都市の心臓部に据える作法というのは、どこか日本離れしており、アルプスの蒼い山並みや漆黒の天守を頂く城郭と並んで、松本という町の印象を格別なものにしている。

 2万坪ほどのこの一画は「あがたの森」と呼ばれている。 松本市が管理するこの緑地公園には、その成り立ちにまつわる一つの物語りがある。実はこの場所には、かつて旧制松本高等学校が置かれていた。
 並木道を進んで奥まった位置に黒御影石の記念碑がたっている。周囲は欅の森だ。奥には当時の学生達が合宿生活を送った「思誠寮」の遺構が残っている。
  碑には簡潔に、こう記されている。
われらの青春ここにありき。(昭和43年9月除幕)

協力 松本市教育委員会、旧制高等学校記念館
   各旧制高等学校同窓会、旧制高等学校資料保存会